昔のことなのでちょっと記憶があいまいな部分もあるのですが、それは確か高校卒業を控えた春か、大学に入ってすぐくらいのことであったと思います。
新宿の某大型書店を何という当てもなくぶらぶらうろついていた、ということを考えると、もう大学に入った後だったかも知れません。(当時からケチだったので、定期で行けないような所にはなかなか行かなかった筈/笑)
私はさほどSF読みというわけではないのですが、ハヤカワ文庫SFのブルーの背表紙に並んだタイトルをなんとなく眺めるのが好きで、書店をぶらつく時には大抵その書棚の前というのも決まったルートに入っていたのですね。そんないつもの巡回コースの中で、ふと平積み棚の一冊が目を引いたのでした。
緑がかった空に毒々しい赤い星の浮かぶ、いかにも異星の風景の中、大きく翼を広げて飛翔する巨大な竜の背にまたがって髪をなびかせる女性の小さな姿。──そう、シリーズ一冊目の「竜の戦士」でした。
確か、そのときかかっていた帯に「シンデレラストーリー」的なあおり文句が書かれていたのを覚えています。まあシンデレラはともかく、「竜に乗って空を飛ぶ」というシチュエーションに心をくすぐられ、結構な厚さのその本を、何気なく手に取ってみたのでした。
裏表紙の作品紹介を読み、続いて序章から本編へと軽く目を通してみたところで、あっさり心は決まりました。
火を吐く竜が出てくる話だけれど、いわゆる「剣と魔法のファンタジー」ではなく、異星の原住生物から遺伝子操作で作り上げられたという「竜」。母星の記憶がとうに失われた植民地惑星で、独自の文化を育てながら、宇宙空間から定期的に降り注ぐ胞子生物の侵略を撃退する人々の話! そんな硬質な骨太SF設定を背景に持ちながら、全体の空気はどこか中世的で全くSFっぽさが感じられないというそのバランスの妙にやられました。
速攻買い求めて帰路の電車内からのめり込み、帰宅後も食事と風呂の時間を除いてむさぼり読み、夜を徹して読み進めるうちに、すっかり惑星パーンの魅力に取りつかれておりました。
とにかく竜たちがいい! 強い精神感応力を持った男女が「感合」の儀式を経てその騎士となり、終生変わらぬ忠実な友として文字通り心を分け合うようになる…というその設定もさることながら、個々の竜の性格や言動(直接口をきくわけではなく、伴侶の騎士との間に通じるテレパシーだというのがまたよしv)がめちゃめちゃ魅力的でたまりませんでしたvv
そしてヒロインのレサとヒーローのフ-ラルが、緊張感を持った共闘関係から次第にかけがえのない伴侶になってゆく様も、18歳お嬢ちゃん当時の大庭の心を大変強く揺さぶったものでありましたよ!
このフ-ラルが(ふーらるではない。あくまで、ふ・らる)、まためっぽうかっこいいイイ男なのですよう〜v 自信家でちょっぴり皮肉屋で、厳しく鋭い眼を持ち、忍耐強く先見の明もあり、信念を貫くにあたっては一片の妥協もない、全身これ意志の固まりといったリーダー。目的もなく物を言う男ではなく、超然としたポーズの下に聡明な精神と情熱を隠してる。しかも念のいったことに、堂々たる逞しいハンサムですよ?
もう理想です、理想!(笑)
真面目な話、私の「ヒーロー像」というものの6割方はこのフ-ラルにあると言っていいと思います。(あとの4割は、雑多なマンガやアニメや小説や映画その他諸々のごった煮状態)
正直、第一巻はちょっと訳文が堅くて読みにくい部分もあり、初めて知るパーン社会の諸々が腑に落ちるまで少し時間がかかったのですが、そんなものは何のその。世界設定にもストーリーにも、どんどん出てくる魅力的なキャラクター達にもぞっこん惚れ込んで、そのまま当時の既刊、「竜の探索」「白い竜」へと一気になだれ込んで行ったのでした。
…その後の、新刊が出るまでの長さと言ったら…(とほほ)
奥付を見ると最初の三冊はとんとんっと間を置かずに刊行されていたようですが、その後はだいたい一冊出るのに2年はかかっている感がありますね。2004年現在、正伝8巻外伝3巻が(上下分冊は一巻として)邦訳されているのですが、まだまだ続きはいっぱいあるんですよう〜。
フ-ラルとレサの時代の正史はひとまずおしまいだとか言われてましたけど、でも現時代という意味ではまだ、7巻で出て来たジェイジとアラの息子とイルカの話とか、若き日のロビントン師の話とかもある筈ですし、そりゃもう読みたいものがいっぱいです。ああっ待ち遠しいっっっ(><)
ううう。そりゃまあ英語で読めればいいんでしょうが、パーンは長い上に特殊用語が多いので、つい挫折してしまうのよ…。(実際「竜の挑戦」には邦訳の出る2年ほど前に挑戦したのですが、結局半分くらいしか理解できてなかったです〜〜)
新刊が出れば、その厚さをものともせずに一気にのめり込むように読んでしまい、その後数年を「ああ早く続きを続きを〜〜」と悶絶しながら何度も既刊の読み返し。その繰り返しでもう二十年ですか……(遠い目)
多分いつかは出会って読んでいたのではないかしらと思うこのシリーズですが、まだ心の柔らかい真性お嬢ちゃんであった時代にこの本に出会えたことは、ある意味ひとつの財産であったと思います。
私が今「好きな本は?」と問われたら、無論いろんなジャンルで何冊も挙げられるとはいえ、SFの中ではきっとこのシリーズを入れることは間違いないです。(でもSFの中での一番は、やっぱりハインラインの「夏への扉」…v)