Love is in the air


◇ Love is in the air 2 ◇



 このところの聖地では、炎の守護聖が外界への出張から帰還すると、途端にはっきりと空気の色が変わるのだ。それは、常人でも感覚の鋭敏なものならば、しっかり感じとれるほどの明らかな変化だった。
 木々の緑はつややかに生気を増し、風は芳しく薫り、光の色合いまでがくっきりと濃くなって生き生きと喜びの波動を伝える。
 それまでも、決して沈みこんでいたわけではないにもかかわらず、彼が次元回廊から一歩聖地へと入った瞬間に、全てが生命の息吹を得て鮮やかに変化する。こんなにも世界は美しく息づくものなのかと、誰もが感嘆せずにはいられぬほどに。
 それは、愛するものの帰還を一早く察知した女王のサクリアそのものが喜びにうち震え、彼に向かって迎えの手を差し伸べるその証に他ならない。

 元々女王サクリアをごく近しいものとして常にその身に感じている守護聖達にとってみれば、彼等の再会の抱擁にも似たその共鳴に否応もなく巻き込まれるのだから、ある意味たまらないと言えばたまらない話だ。
 それは確かに、彼等の愛する女王と炎の守護聖との結び付きは、誰もが心から祝福し支えてやりたいと願っているものではある。
 何人たりとも引き離すこと能わざる、魂の半身同士の深い絆。それを敢えて引き裂こうと思う者など、ただの一人もこの聖地には存在しない。
 無論、そこまで到達するにはそれなりの紆余曲折もあったものだが、しかし、どんな言葉よりも強いこの波動を一旦身に受けてしまっては、誰に何が言えるだろう。
 深い愛に包まれ、幸福に満ちた女王を戴くことの心地良さと幸せは、何物にも替え難いものである。──そう人々が気付くのに、さして時間はいらなかった。
 だが、だからといって、オスカーが出張から戻る度に感じさせられる、このむずがゆいようなくすぐったさを、無条件で受け入れられるというわけでもない。揃いも揃って独り者揃いの守護聖達には、多少のからかい混じりのやっかみもある。
 女王サクリアの幸福な波動に包まれる歓びは歓びとして、やはり少しはあの色男に軽い意趣返しくらいしてやりたいではないか。「報告」という大義名分のもと、帰還後すぐに恋人の元へ飛んでいこうとするオスカーを、その前にほんのちょっぴり引き止めてやるくらいは許されたっていいと思う。
 それに、炎の守護聖は九人の中でも実動部分の要となる立場だけあって、いつでもそこそこ急ぎの仕事の一つや二つは本当に待ち構えているものなのだ。


「ま、いんじゃねーの? 報告済ませちまった後は、誰も邪魔する奴なんかいねーんだしよ」
 ゼフェルはくすくすと笑って、手にしていた本をパタリと閉じると立ち上がった。

オスカー帰還




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