アンジェリークに花束を


◇ アンジェリークに花束を ◇



 ”次に贈る花は、ちょっと考えないといけないな──”


◇◇◇


 健気に頑張る可愛い君に、スィートピーを贈った。
 淡いピンクの可憐な花は、愛らしい君によく似合った。
 きらきらとその瞳を輝かせながら、とりとめのない話を夢中でする君。
 俺のなにげないからかいの言葉に、真っ赤になって口を尖らせ、すねる君。
 そして、にじみ上がる涙を必死にこらえながら、厳しい叱責に耐える君。
 ──それでもしゃんと頭をもたげ、唇をひきしめて前を見据える君に、いつか惹かれた。

 いつの頃からか、君の表情が変わってきた。
 元気に明るくはしゃぐばかりだった君のその瞳が、けぶるように揺れるのを見た。
 うっすらと頬を染めて睫を伏せるその横顔に、微かな憂いが宿っていた。
 そして俺にまっすぐ向けられるその視線が、強く、せつなく、訴えかけてくる。
 『お嬢ちゃんと呼ばないで』、と。
 心が、震えた。

 ならば…君をちょっと試してみようか。
 これは小さな賭け。俺自身、見極めてみたいという気持ちが強くある。
 それが、少女の一時の憧れに過ぎないのか、それとも──
 ──恋が、君を開花させようとしているのか。


◇◇◇


 …全く、君には驚かされる。
 俺はきっかけを与えただけ。花開いたのは君自身。
 もう、お嬢ちゃんとは呼べないな。
 だがそれが、ひどく嬉しい。
 どれほど自分が待っていたか、今さらながらに思い知らされる。
 咲き初めたばかりの、みずみずしい華。
 俺の為に咲きほころんだのだと、自惚れてもいいだろうか。

 今の君に、最もふさわしい花を贈ろう。
 小さいが香り高い、清冽な白い薔薇を。
 もはやつぼみではなく、だがまだ大きく咲ききってもいない、どこか初々しいこの花を。
 君という美しい花が大きく開いてゆくのを見守っていきたい。
 そんな願いをこめて、この花を贈ろう。

 ──アンジェリーク、君の為に。


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あとがき

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