星降る大地に


◇  星降る大地に 1  ◇



「視察?」

 アンジェリークの意外な言葉に、執務机を離れて彼女を迎えようとしていたオスカーの足が一瞬止まり、その眉が大きく上がった。
「──君がか」
 補佐官の長いドレスがようやく馴染んできたかどうかという初々しい姿をまじまじと見つめながら、確かめるように問いかける。
 アンジェリークは書類のファイルを胸に抱いたまま、こくんと頷いた。

「あのね、今回の調査には、女王サクリアを持った私が直接赴くのが一番都合がいいらしいんです。なんでも複合的な要因が絡み合った結果のバランス異常らしくって。王立研究院の方から、そういう提言がありました」
「…まあ、研究院の方で最適と判断したというなら間違いはないんだろうが。それにしても、君をいきなり外界へ視察に出すとはな──」
 気がかりそうに彼女を見るオスカーの表情は、守護聖としてのものではなく、愛しい恋人を思いやる時のそれになっている。それに気付いてうっすらと頬を赤らめながら、アンジェリークは小さく微笑んだ。
「それでね、私はこれが初視察だし、視察慣れした守護聖のサポートがあった方がいいだろうって、そうも言われて。だったら護衛も兼ねて、あなたに一緒に行ってもらうのが一番いいんじゃないかってロザリアに言われたんですけど」
「なるほど、そういうことか」
 ほっとしたように少し力を抜いたオスカーが、にこりと破顔した。
「それならわかる。君を守り、調査を支援するという任務において、俺以上の適任者はいないだろう。陛下の信任を得て光栄だ」
 満足そうに得々と言い、その強固な自信を顕わにするオスカーに、アンジェリークは思わず笑いをこぼして、ちょっといたずらっぽく上目遣いに彼を見た。
「ロザ…陛下がおっしゃるには、あなたはこの役目を到底他の人には譲りたがらないだろうしって」
 そう言った時のロザリアの表情を思い出して、アンジェリークはくすりとおかしそうに笑った。
 オスカーはまじまじとそんな恋人の顔を眺め、いたって正確に彼女達のやりとりを思い浮かべると、ちょっと苦笑しながら「陛下のご慧眼には敬服の至りだ」とだけコメントした。
 アンジェリークは嬉しそうにくすくす笑い、それからふと笑いを収めると、ほんの少しだけ気づかわしげな目になった。

「…何か問題が?」

 オスカーが目敏く気付いて表情をひきしめる。アンジェリークは慌ててかぶりを振ると、胸に抱えたままになっていた書類を両手でオスカーに差し出した。
「問題というわけじゃないんだけど」
 アンジェリークは一旦言葉を切って、真剣な目でオスカーを見上げた。

「──行き先は、草原の惑星です。オスカー」



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