「──似合うかなあ〜」
もう何度目になるだろう、居間に置かれた鏡の前で、顔の角度を変えてみながらためつすがめつしていたアンジェリークは、恋人のあきれたようなくすくす笑いに、ちょっと照れ臭そうに振り返った。
「似合うに決まってるだろう。俺達は結ばれるために生まれてきたんだぜ、ということは、このピアスが君に似合わないわけがない」
わかったようなわからないような理屈をこねる恋人は、すっかりリラックスした様子で気に入りのソファに長々と寝そべっている。
大騒ぎだったパーティから引き上げてきたオスカーとアンジェリークは、補佐官邸のこぢんまりとした私的な居間で、くつろいだひとときを共にしていた。
「そんなことばっかり。そりゃ、オスカーはシャープな顔立ちだし、とっても似合ってるけど」
こちらもくすくすと笑いをこぼしながら、アンジェリークはもう一度、うっとりと幸せそうに鏡を覗きこんだ。
部屋の明りを映して、金の輝きがチカリときらめく。いつもオスカーと共にあったそのきらめきが、今自分の耳元に踊っていることに、アンジェリークは体中が暖かく満たされるような幸福感を感じて、ほうっとどこかせつなげな吐息をついた。
「優しい恋人がすぐ側にいるってのに、一人でそんなため息をついてるもんじゃないぜ」
からかうようなオスカーの声に、アンジェリークは鏡の中を見つめたまま、はにかみがちに微笑んだ。
「だって。嬉しいの。──ほんとにオスカーの奥さんになるんだなあって思って。なんだか夢でも見てるみたいで、何度も確かめてみたくなっちゃうの」
「アンジェ」
オスカーはソファから身を起こして座り直し、いとおしげに柔らかく微笑んだ。
「それは、俺も同じさ。確かな絆のつながりを、何度でもこの目でしっかり確かめたい。だから──」
オスカーは一旦言葉を切って艶のある笑みを浮かべ、軽く腕を広げてみせた。
「──こっちへ来いよ。アンジェリーク」
その言葉にぽっと頬を染めながら、アンジェリークは素直に駆け寄ると彼の腕の中にすっぽりと収まった。
髪をかきわけて耳元に何度も落とされるキスに、蕩けるような吐息をつきながら、アンジェリークはひそかに思う。
あのね、オスカー。
私、とっても幸せなの。
あなたとの絆ができたってことはもちろんだけど、こうして一緒にあなたの故郷とのつながりを、ずっと継いでいけるんだっていうことが、ほんとにとっても嬉しいの。
オスカー。これからはずっと一緒ね。きっと、あなたが私の故郷になるのね。私も──あなたの故郷に、なれるかな。
オスカー。
──大好き──。
《 あとがき 》
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